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剱持泰典のグループホーム泊まりこみ検証の記録です。
建築家は設計したらそのままということが多いですが、それではいけません。実際に使われている様子をみて、良い点・反省点をきちんと把握することが大切だと思います。

グループホームA
その1
その2
グループホームB
次回更新予定

グループホームA その1

 

※登場人物は全て仮名です。

初めて自分がつくったグループホームに遊びにきました。木造2階建て1ユニットの住宅風グループホームです。
今まで言われるまま設計はしたけれど、認知症の人々と接することなく漠然と計画してきたことで・・・自分自身の反省のためにも・・・やってまいりましたよ~
でも、本当に初めてで、ちゃんと僕のことをわかってもらえるのかな?また、少しはコミュニケーションとれるのかな?それどころかスタッフやみんなに迷惑をかけないのかな?情けない話・・本当に認知症のことを詳しく知らないので、かなり緊張気味に玄関前にたたずむ僕がいます。


-訪問

勇気を振り絞り『おはようございます。』と挨拶して玄関からみんなが居るリビングに入っていきました。
すると、『いらっしゃい。』と元気のいいおばあちゃんの声がして、内心ホッとした僕がいました。そこは4人1ユニットでとても小さな家です。
リビングにI型のこじんまりしたキッチンがついていて、けっして大きなリビングでなくとてもコンパクトなつくりです。でも、家庭らしい装飾とにおいや・・本当にそこには普通の家庭がありました。

 

-食事

しばらく過ごすと昼食の準備が始まります。このGHは食材も利用者と一緒に買いに行き、一から食事を作ります。
ただし、2階の人の食事も1階のキッチンで作ります。もちろん、手伝うことができる人は一緒に作ります。私は初めての訪問なので食事つくりは遠慮させてもらいました。しかし、切ったり刻んだり・・手伝える利用者の器用なことには驚きました。みんな手先を器用に動かします。
これが真の生活リハビリだな。機能回復や維持だけでなく、機械に頼りきる機能維持ではありえない生きがいや役割を得て、楽しそうに食事の準備をしている利用者を見て素直に感じたのです。また、ここまで、利用者の皆さんが手伝えることに本当にびっくりしました。

 

食事を少し緊張しながら食べました。何をしゃべっていいのか?見当が付かず・・少し緊張しましたが美味しく食べることができました。
やはり、病院食でなく陶器の茶碗やお椀や、皿がごくごく普通の家庭的なもので、炊飯器や鍋から直接よそおってくれる・・家庭ではあたりまえの光景がここにはあり大変満足した食事タイムとなりました。

 

-会話

さて、昼からはコミニケーションが取れる人とは失礼にならない程度にしゃべって、なるべく、利用者と接するように心がけGHとは?認知症とは?を学ぶように心がけました。

先ず1階の斉藤さんから・・帰宅願望ではなく単純に外に座ってゆっくりするのが大好きなおばあちゃん。認知症の人はどうしても精神的に乱高下する傾向があります。
斉藤さんも幾分その傾向があり、精神的に不安定になったときはスタッフが暖かいときは外のベンチに座らせたり、寒いときは玄関にある腰掛に座ったりすることで、かなり落ち着いてみんなのところに帰ってくることを聞きました。

その日は幾分暖かかったので僕は斉藤さと、日向ぼっこを1時間ほど楽しみうたた寝をして気分よく一緒にリビングに帰ったことを思い出します。
その時に思ったのは施設内と外部との密接な関連性を学び、『リビングからすぐ外に出られて、ゆっくり過ごす場所があればもっといいことに気づきました。』

 

いつも気を使ってくれる田中さんも混乱がみうけられる利用者でした。
会話は成り立ちにくいけど僕は、習った介護手法を活かすべく・・理解できないまでも一生懸命聞いてうなずくばかりでしたが、田中さんが落ち着いてきたような気がして少し満足な気持ちがしてきました。

また、この建物の寝室の窓は全て掃きだしのサッシです。もちろん日中は玄関の鍵もお部屋の鍵もかかっていません。かってに出ないのかな?と少し不安になりました。その時田中さんが自分のお部屋に入って、頻繁に内障子を開けたり閉めたりしている様子を目にしました。うん?帰宅願望?と思いましたが、スタッフ曰く『田中さんのお部屋からケア付きハウスが見え、そこに身内の人が居るから気になるのでは?』とのこと・・僕は納得という気持ちでいっぱいでした。

 
 

学校の先生をしていた木口さん。
GH内からは昔懐かしい音楽が時々流れ、合わせて楽しくリズムをとっていました。とても、楽しそうでこちらも嬉しくなってきました。
ものいいも優しく僕はついつい調子に乗って、『お部屋拝見』ということで、断りなく木口さんのお部屋に入りました。その時振り向いたときの木口さんの怖い顔が忘れられません。断りを入れてお部屋に入るという基本を忘れたことに僕は猛反省です。

 

時は流れ夕方近くになりました。僕は2階のユニットに遊びに行きました。
その時、相撲中継をしていて上川さんがテレビを見ながら盛り上がっていました。上川さんは僕の少し出っ張ったおなかを見て、『あの相撲取りと同じだ。』と冷やかしてきました。また、色白の僕と関取を比べてさかんにはやしたてました。

しばらく一期一会の会話をして時は流れていきました。また、上川さんは老建からこちらに移り住み排泄が自立したとスタッフから聞いてやはりグループホームでのケアは素晴らしいと、その時確信したことは今でも忘れません。

 

いよいよ夕暮れの時間になりました。夕暮れ症候群の時間です。
難聴気味の北川さんは高校生の娘が心配だから『帰りたい。帰りたい。』と連発しましたが、その時に、様子をみていた上品な岡田さんが「こんなに安心なところは他にはないんだから」と北川さんをさかんに諭していた。
その様子をみて『利用者同士の助け合いも大事なもんだ。』と一人でうなずく自分が居ました。スタッフから岡田さんは上川さんと特に仲がよく上川さんを面倒みることが生きがらしい。寄り添う風景を見た後だけに、妙に感心した覚えがあります。しかし、反面合わない人とは合わないので苦労すると聞いたとき、僕の心は少し痛みました。

 

-夕食

夕食は2階のユニットで摂ることにしました。
煮物やお吸い物・焼き魚がメインで昼食と同じように充分満足できるものでした。
夕食後食器類がシンクに山盛りされています。その時に夕方まったく表情がなく会話が成り立たなかった桑田のおばあちゃんが、一人シンクの前に向かいました。

僕は夕食後一宿一飯の恩義ではないですが、後片付けを手伝おうと思い流しにむかいました。しかし、思わぬことを言われました。
まったくしゃべろうともしゃべらなかった桑田さんが、『あんたは手伝わんでええ』と突然言ったのです。しかし、私は食い下がり『手伝いたい。』と嘆願しました。堂々巡りが始まったのです。最後には桑田さんが『男が台所に立つな。男は台所に立つようにはなっていない。』としっかりした口調で怖い目で僕を見据えました。
さすがに、その迫力に押され僕は手伝うことをあきらめました。同時に『ちゃんとできるのかな?』と不安気に桑田さんの行動を見つめました。
心配は無用でした。それは・・それは桑田さんの食器洗い等・・後片付けは実に見事なものでした。僕は本当に驚き、片付けを終えた桑田さんに『片付けありがとうございました。本当に見事な仕事ぶりで凄いですね。』と言うと、桑田さんは満面の笑顔を僕に向けました。

『日常生活での役割をまっとうすることでの生きがいつくり』を身近に学んだ気持ちになり僕はなんだか嬉しくなってきました。その後桑田さんはいつもの抑揚がない表情にもどっていきました。

 

夕食後には、最初から気になっていた久保のおばあちゃんとおしゃべりを始めました。

なぜ?気になるのか。と言うと久保さんは15年以上前に亡くなった僕の大好きなおばあちゃんと雰囲気がとてもよく似ているからです。
久保さんは暫らくすると、とにかく幾つもの眼鏡を部屋持ってきてくれて僕に見せてくれます。また、僕が『退屈だろう?』と何冊も本を見せてくれました。しかし、その雑誌の表紙や裏表紙に『眼鏡がなくなった。』とか『誰かに盗られたかも?』とかの被害妄想的な文字の殴り書きがあり、心がチリチリと痛みました。