3.子供とお年寄り、有償ボランティア |
剱持 |
以前はデイサービスの中に子供を預けて、お年寄りと交流させてもらうという「サービスと対価」の関係だったんですね。 |
澤 |
そうです。それをやめてお母さんも一緒に交流することにしました。
やはり、子育て支援ってお母さんも成長することでもあります。
モンスターペアレント問題など親も成長しきれていない社会なんですかね。 |
剱持 |
今はおじいちゃんやおばあちゃんと同居しないですし、近所の子供を世話する機会などが失われていますよね。同世代の交流しかなくなっていると思います。 |
澤 |
秋田県が学力トップですよね。なぜかというと持ち家比率が多く、おじいちゃんやおばあちゃんと同居していますよね。関わりが多いことが重要だと思うのです。 |
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剱持 |
興味深いと思ったことは、子供が幼稚園に入った後も有償ボランティアでお母さんが来られているというのはすごいことですよね。 |
澤 |
そうなんです。子供が成長するとこのコミュニティから外れていくということが起きてました。お母さんからこの有償ボランティアをやりたいと言ってくれました。今は3名のお母さんが登録してくれています。 |
剱持 |
お母さんからの提案だったんですね。
ここは多世代交流が目的とおっしゃったので、この間の世代を増やすうえで有償ボランティアというのはとても重要ですよね。 |
澤 |
そうです。ここでの人間関係がずっと続いていくので、安心感につながります。 |
剱持 |
もともとはボランティアの対象はお年寄りだったんですよね? |
澤 |
そうです。60~79歳くらいのお年寄りの方を対象としていました。特に独居の方を優先して勧誘してきました。
お一人住まいの方はここに来られると劇的に生活が変化するんです。いつもは一人でご飯を食べているだけなのが、全然変わりますよね。 |
剱持 |
人と話すのが3日に一度みたいな状況にある方が多いといいますものね。
どのようにしてボランティアは募集されるのですか?先ほど独居の方を優先とおっしゃいましたが、 |
澤 |
探すときに町内会などの知り合いの方にお聞きして、独居の人で元気な人いませんか?といったような具合で推薦していただいてます。
今、老人会長からの推薦で来ていただいている方がいますが、彼女は昔料理屋をされていたので、散歩ボランティアに加えて調理もお願いしています。
男性では町内会の副会長の方が来られています。 |
剱持 |
料理屋をされていたことなど、自分の技術を発揮できるというのは良いですね。たけのこの家の料理は美味しいでしょうね(笑)
男性はコミュニティにはあまり入りたがらなかったりするもんですけどね。 |
澤 |
副会長の方には運転職員としても働いて頂いています。
62歳くらいだと車いすを押せるんです。散歩の時などに女性にはお願いしにくい大変な仕事でも男性なら出来ることがたくさんあります。 |
剱持 |
みんなに役割があるんですね。おそらく子供にも。 |
澤 |
そうなんです。普通の子育て支援センターって役目がないですよね。
ここでは子供にもちょっとお水を持っていってもらったり、お風呂嫌いなお年寄りを誘導してもらったりしていました。 |
4.建築的な視点 |
剱持 |
建築的な話をお聞きします。
今、この空間になっているのはどういう計画があったのでしょうか? |
澤 |
普通、デイサービスはお風呂が大きくて、台所を削っています。ここは元々、デイサービスのために作っていないので、本当はお風呂が要らなかったのですが、用途地域の関係でお風呂を作らざるを得ませんでした。
実は、ここはコーラスグループ30人の食事をするスペースだったんです。30人のうち20人が女性だったのですが、みんなで調理をしても大丈夫なように台所を大きく作りました。これは特徴的な点ですね。建設当初から地域の建物としても想定して車いすのスロープなどを作っておきました。ただ、コミュニケーションということを考えたときに、厨房を大きくして美味しい料理が楽しくつくれるようにしておくことは大事だなと思っています。
お風呂は小さくてもうちのようなデイであれば、問題ありません。レクリエーションや外出が多いんです。普通デイサービスは屋内で外に出ないですよね。必然的にお風呂にかける時間が少なくなっていくんですよね。ちなみに1回の入浴に30分かけています。午前中と午後で合わせて5人しか入れません。
また、これは一般的なことですが、介護度が高くなると入所してしまいます。家族がもたなくなるんですね。ですから、巨大なお風呂場は必要ありません。 |
剱持 |
一般的にはお風呂の需要というのはとても高いですよね。デイに行ったらとにかくお風呂に入れてくれというような・・
でも、おそらくここにはお風呂以上の魅力があるんですね。 |
澤 |
そうだと思います。そういう意味では特殊かもしれませんね。 |
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剱持 |
子供の部屋は後でつくられましたが、そのときはどういった方針でしたか? |
澤 |
先ほど述べたように、お年寄りと子供のリズムの違いに対応するためにつくりました。
8畳ほどのスペースですが、なるべく広く場所を取りたいと思いました。テラス方式でやり、上部には開閉式のカーテンを設置しています。300万円ほどかかりましたね。 |
剱持 |
大きさがちょうど良いように感じました。 |
澤 |
そうですね。コミュニティをつくるうえで、あまり大きすぎるのは良くないですね。今は13組というちょっと多いので、10組程度を限度にしたら良いかなという感じですかね。
今は女房の力もあって、休む人が居ないので人がちょっと多いです(笑) |
5.これからの展開 |
剱持 |
これからの展開をお聞きしたいと思います。
何か変えたい点などありますか?
最近だとデイは泊まりの需要が高まって、制度改正に向かっていますが。 |
澤 |
経営的に成り立つ必要がありますから、お泊りしないと成り立たないということになれば考えますが、元々の目的が世代間のコミュニティ作りですから、次の展開は学校支援など地域への広がりを考えています。
たけのこ自体の事業拡大などは考えていません。
やはり、コミュニティ作りが特徴なので、それを拡げていくことが方針です。 |
剱持 |
町全体でケアできる環境づくり、ネットワークづくりですね。 |
澤 |
そうです。
もちろん、ここでお泊りや障碍者受入れなどの要望はあります。
たけのこの2号などだれかがやってくれれば、もっと良いまちになるなと思います。 |
剱持 |
この建物で色々な機能を持つというより、町の中でそういった場所がたくさんあって、それが相互につながるイメージでしょうか。 |
澤 |
そうですね。 |
剱持 |
そちらの方が柔軟ですね |
澤 |
今、さくら家という任意団体を作って、ふれあいの居場所づくりを考えています。勉強会などを開いています。
少し前に、近くの喫茶店でふれあいの居場所づくりの案が挙がりました。でも、みんなやっぱりいきいき交流センターの周りでやりたいということでした。 |
剱持 |
場所は大切ですもんね。 |
澤 |
喫茶店では家賃5万円を払うことになるので、そういった負担をもつよりも時々オープンカフェなどをあの場所で開いたりしたいという意見が出ました。あの場所でやっていきたいということでした。
連合町内会もあの場所をほっといていいのか?ということも議題に挙がっています。
明日、改めてさくら家で説明する予定です。
学校支援ボランティア活動を行っています。
山陽東小学校で始まり、北小学校でも今度始まります。今90人、北小学校では50人のボランティアが集まっています。
私はこちらのコミュニティにも入っていて、たけのこの家でも一つのコミュニティがあります。さくら家でも集まりがあり、わいわいやっています。
みんながやる気があるので楽しいです。この指とまれで来た人なので、その人たちと話していると楽しいし、エネルギーをもらいます。足の引っ張り合いではなくてね。
連合町内会でもかなり受け入れてもらえて、支援を頂いています。それぞれの活動が全て必要なものですからね。
これらをみんなで考えてやるっていうのは生きてて楽しいですよね。 |
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6.品川区プロポーザルについて |
剱持 |
最期に少し私たちのプロポーザルについて助言いただければと考えています。
品川区で小学校跡地に高齢者の施設を整備するという計画があります。
たとえば、お年寄りの多世代の交流の場ということで、通所施設ではここのようなイメージが出来そうですが、入所施設ではどうでしょうか。
ちなみに、これはうちで近年設計した特養ですが、地域交流のスペースを入所部門と分けています。完全に分棟しました。これは、特養だけでなく、近くの病院や地域の人たちも気軽に来られる場所として想定しています。
一般的な設計ではこういった場所は建物内の1階にスペースを設け、上階に入所部門を配置することが多いです。
岡山家族会代表の妻井さんはこのように入所と交流部門を分けてつくることはとても良いと言われました。入所の人たちも出かける気分で交流に向かいます。
建物内にあると外からは行きにくいですからね。 |
澤 |
品川区の事業は小学校を改修するの? |
剱持 |
今年度末まで小学校として使用しています。その後、小規模特養、小規模多機能、グループホームなどの施設へと改修されます。また、地域施設の整備も行われる予定で、こ れは事業者の提案にある程度ゆだねられています。
近年、こういった事業は地域との繋がりや多世代交流など、お年寄りの施設だけでなく、障碍者や子供、地域の人々を巻き込んで進められています。
※残念ながらこの事業計画は品川区から採択されず幻となりました。 |
澤 |
たけのこの家のような取り組みを東京でもやったらいいと思うんだよね
都心ではニーズがあるんじゃないかな? |
剱持 |
まだ都心部は子供だけ、お年寄りだけで処遇することになっていますね。
だから行政リードで仕掛けています。一昨年のある大手の会社がGHと保育園を合築するというコンペがあり、子どもとお年寄り、そして、地域まで巻き込んだ交流施設の案を出しましたが・・・なかなか大手では福祉サービス事業から福祉を取り除いた『サービス事業』だけとなりビジネス本位なんですね。この案も施主の理解度が低く採択は見送られました。 |
澤 |
残念だね。こちらも聞いていて、現実に切なくなりますね。
設計はもちろんですが、うまく運営が出来ると良いですね。ソフトの作り方をどういうふうにやるかという点にかかってますね。だから大手では小回りがきかずだめなのかな?
それから、こういった場所(交流スペース)は施設の中もしくは近くにつくるわけだけど、一昔前には施設から地域へ出て交流するということが言われていました。 |
剱持 |
逆デイといったような? |
澤 |
そう、逆デイも含みますね。でも、最近は出て行く地域にコミュニティが無いという問題があります。現状で集まりが無いのに、そこに行っても意味があまりないですよね。
たけのこの家は施設が地域の人々を呼び込んで、コミュニティを再生していくことに取り組んでいるわけです。元々、地域にコミュニティがあるような場所ではこういったものは必要ないはずなんですね。
設計された建物はそういう取り組みの基盤となることがイメージできますね。ただ、運営者が必要ですから、そこをどう工夫するかですね。 |
剱持 |
施設の一部としての交流スペース運営ではなく、地域の一部としてですね。 |
澤 |
そうです。運営する人の力量が試されますね。
他でも会員制の子育て支援はやれないですかね。たけのこの様な |
剱持 |
新生寿会ではスタッフの子供は来ていますね。 |
澤 |
それでも良いですね。でもお母さんが居ないですね。
品川区はそういったニーズはあるのでしょうか?
地域のニーズはとても大切です。
子育て支援センターは品川区にもあると思います。ただ、その弱点は同世代ということです。ここを見てもらって分かるように、多世代交流はとても暖かいです。
有償ボランティアで独居の高齢者の方に来ていただいても良いと思います。
たけのこがうまくいっているのは役割があるという点です。入所の方も有償というかたちでも良いので何か役割が得られるような機能が出来ればいいですね。
たけのこの話でいえば、そういった人が来てもらうと施設としての魅力にもなります。お風呂の介助なんかは難しくても、散歩の付き添いや買い物の付き添い、お水を出したり、極端な話そこに居て、話相手になるだけでも、施設としての介護の質向上になります。 |
剱持 |
一般のスタッフとは会話の内容も違うので、日々に彩りが生まれますね。 |
澤 |
そうです。はっきりいって介護レベルが上がります。
有償ボランティアが使えるということはNPOであることの大きなメリットだと思います。
なんたってデイサービスとしてみれば、スタッフが多いんですもん(笑) |
剱持 |
みんなが得をしていますね(笑)
今までの技術も活かすことが出来ますしね。 |
澤 |
いま、お母さんたちはお菓子を作ってくれています。
皆さん、自分たちが得意なことを活かして、この場を盛り上げてくれています。 |
剱持 |
品川の計画でも、地域の人たちが気軽にやってきて、入所の人もそこに行けるような場所があれば良いですね。
入所のような介護度があがっても出向くことが出来れば、本当に最期まで地域とつながっていられるような気がします。 |
澤 |
この会員制子育て支援の良いところは、普通の保育施設では色々と規制が入るのですが、ここは近所のお付き合いなので、ある程度自由に出来る。また、責任の所在がお母さんにあるので、やりやすいです。たとえば、これが認可外保育所だったら監査など来て、色々言われます。これなら、スペースさえあれば出来ます。
いま、赤磐市より5000円/日の補助があります。そうすると、人件費分くらいは出ます。年間で70万、デイサービスで4000万売り上げがあるので、持ち出しもわずかなものですね。
こういったものを高齢者施設にもっているというのは強いです。
入所の方が利用したとして、もしかしたら15分とかかもしれない。
でもいくらでも可能性があります。
私の希望としてはこれを東京でも実践してもらいたいと思っています。 |
剱持 |
小学校は場所としてはポテンシャルの高い場所ですよね。
中心部でみんな一度は通っています。 |
澤 |
子供の遊ぶ場所があるじゃない。グランドや外で遊ぶことができるというのは大きいですよ。エネルギーを発散させる場所がないと世代間交流は難しいです。
たけのこの家は、今度県の事業が終わるので補助金は無くなる予定だったんですが、なんと赤磐市が単独で助成してくれることに決まりました。 |
剱持 |
行政との連携が深まることは良いですね。 |
澤 |
あと、行政と進める場合、最も気をつけないといけない問題は感染ですね。
先日ニュージーランドの方が来られた際も、その点を聞かれました。
何か問題があれば、行政側が攻められるからね。
ここは基本的に「ご近所さんの人付き合い」というスタンスです。ですから、お母さんの責任ということになっています。
一般的な保育園と違い、新型インフルエンザが流行した際は半月休みました。
また、感染は元気な子供から抵抗力の弱いお年寄りへの問題が多いのです。今の社会では隔離されているようなもんですからね。お年寄りは。一方子供たちはいろんな人と毎日会うので、感染源になりやすい(笑)普段から体調の管理はしていますが、新型インフルエンザでは完全に休むことにしました。
一般の保育園だと、休めないですよね。次の日からお母さんが仕事に行けなくなってしまう。一方、たけのこはご近所さんのお付き合いなので、休んでも問題ないんです。ここはとても重要な点です。
補助金を出している行政も休んでいいですといってくれます。 |
剱持 |
義務にしないんですね。サービスと対価という関係ではない。 |
澤 |
コミュニティづくりが目的なので。機能が目的ではないのです。
難しいときは休めばよいのです。大きな違いです。 |
剱持 |
都市はサービスと対価の関係で発展しますから、子供は子供だけで対応するほうが効率が良いのですね。 |
澤 |
この前、NHKで共生ケアについて特集した際も感染の問題について触れていました。
気をつけるところは気をつけて、無理をしないということが大切です。 |
剱持 |
今日は本当にありがとうございました。 |