1.以前のこと |
司会 |
今回の対談では「さわらびの家」を開設直後と現在ではケアの質が良くなったとお聞きしたので、その経緯をお聞かせいただけたらと思います。 |
剱持 |
以前は利用者とスタッフとのコミュニケーションが感じられなかったり、リビングも食事のとき以外は全然使われていない状態で、それ以外は個室に閉じこもっていたり、職員さんの表情も硬かった。という印象を受けていましたが、1年ほど前こちらに伺った際に、長瀬さんが入られてからずいぶん変わったという印象がありました。私もグループホームの外部評価の委員をしていて現場をたくさん見ているのですが、なぜここまで変わったのかという事は前々から興味を持っていて、話をお聞かせいただけたらと思っていたのですが、せっかくなので対談という形で紹介したいと思いまして今回こういう場を設けさせていただきました。 |
梶木 |
結局 前の責任者の考え方が、お年寄りに自由に動いてもらっては事故につながるという事で閉じ込めるという事ではないけれども動かさなかったのではないかと思われます。これではいけないという危惧は持っていましたが、介護職員のほとんどがその考えに教え込まれていた経緯もあり、なかなか改革を進めることが困難でした。 |
剱持 |
施設が出来て半年から一年くらいだったと思いますが、そのときは玄関でピンポンを押しても施設長の了解を得ていなければ設計者でもお入りいただくことは出来ませんというスタンスでしたから・・・。その時は中に入っても利用者の笑顔を見なかった。というより利用者自体を見なかった。記憶があります。 |
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梶木 |
その頃はレクレーションで外に出ることも無かった。桜の頃にちょっとあるくらいで。バスの走行距離が12,3年で1000kmくらいしか走ってなかった。 |
剱持 |
外に出るということは当たり前の生活の実現ということからすると、大変重要なことと思いますが・・・実際外に出ることによりお年寄りが落ち着いてきますもんね。 |
梶木 |
ですからそこらへんを手がかりに変えなくちゃいかんと強く思ったんです。特に長瀬さんが事務局として来てから、彼は、大型免許も持っているので、そういった当たり前のことをどんどん増やそうと思い、変えてきました。明日も閑谷学校に行ってきます。走行距離もだいぶ伸びていると思いますよ |
司会 |
方針を変えようと思われたのは、何かきっかけとかがあったのですか? |
梶木 |
単純に前のやり方がいいと思わなかったからです。正直言っておかしいな?とは前々から感じていましたが、前責任者の人を信じていたこともあり、僕自身も以前は月に2度3度、書類を見に来るくらいでしたが、前責任者が去られて、自分たちの出来ることを少しずつやっていったら、利用者の方も少しずつ変わっていったという事です。 |
司会 |
職員の方も入れ替わりがあったのですか? |
梶木 |
前からのケアの手法を徐々に変えていったので、昔からの手法に慣らされている職員は、変化について来られなくて、結果的にそうなったという感じです。 |
2.改革したこと |
剱持 |
先ほども言いましたが長瀬さんが入ってこられて利用者に表情がでてきたように思われます。また、外出を含め普通の暮らしが実践されているようにもお見受けしました。実際こういうケアをしたいとか、外に出て行きたいという方針は前々から持っていたんですか? |
長瀬 |
私が入ってから2年とちょっとなんですが、ここに来て一番に思ったのは、木の温もりのある、家に近い雰囲気とか匂いのある所なのに、対応は完全ゲストのホテル対応で、お一人お一人部屋に入って自由にしてくださいという対応でした。それが結果としては放置しているという事になっていました。
介護付有料老人ホームという一つのくくりから言えば、その人はその人らしく、出来ることは出来るだけして、生活する中で出来ないところはお手伝いする。これを24時間するというのが介護付有料老人ホームであるはずなのに、外から入るのにも制約がありました。 |
剱持 |
たしかに以前は入りにくい施設でしたね。足が遠のくような気がしました。
普段僕は設計した建物には約束もせずに、いきなり訪問するんですけど(笑)、だいたいはいきなりでも、すぅ~と入っていける施設ばかりでしたから本当にびっくりしたことは記憶に新しいですね。
だから・・・今回のような変化はなんで?と逆にびっくりしたんです。『暖かい家庭になっているやん。』と(笑顔) |
長瀬 |
また、入るだけではなく、出て行くのにも制約がある。というのでは、鳥籠に入った状態で、季節の変わり目も分からなければ、そのときの雰囲気も匂いもわからない状態になってきて、職員自体が介護付有料老人ホームというのが本来どういうところが分からないというのが僕が入ってきたときの状態でした。
今やっている事が正しいのかそうではないのかということは考えず、今までそうやってきたからというだけでした。スーツの上着を着て入ったら不穏になるから上着を脱いで入ってくださいというような対応をしていました。 |
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司会 |
職員さんの中にも戸惑いがあったのでしょうか? |
長瀬 |
職員同士での会話も無ければご利用者様とも会話が無く、要は自然体ではなかったです。ことごとく丁寧な言葉遣いでした。それが1日とか2日行くホテルならそれで良いけれども・・・。我々はそういう接客サービスじゃなく利用者さんと出来るだけ距離を縮めてという方針にしました。それまでは、利用者さんがものすごく落ち着かない毎日、自由のない毎日を過ごされていたし、職員自身もそこにやりがいを感じていたわけではなかったです。 |
剱持 |
そうですね。当たり前のことが当たり前にあるということが大切ですよね。何度も言うようですが、自然の暮らしの中にある日常の積み重ねが大事なんでしょうね。 |
司会 |
その状況からどう変えていったのでしょうか? |
長瀬 |
職員には「とにかくそんな温室に入るな、今やっている事をことごとく崩してしまえと、自分のしたい事、利用者さんが望まれている事をやりなさい。」と話をしました。
利用者本位というのは言葉では簡単ですけど一人ひとり違います。しかし、皆さん口を揃えて言われたのはもっと外に出たいとか買い物に行きたいとかで、先程も出てきた外出行事というのは簡単な事で、しようと思うか思わないかだけで、出来ることはまずやろうとしました。 |
司会 |
利用者さんとの対話を重視したんですね。 |
長瀬 |
ただ、普段の生活のなかではできるだけその人とのコミュニケーションをとって個々の個性を分かるようにしようと、人数的には厳しいかもしれないけどその1分をとる為にも間接業務を削減させようと、ただ、1時間ゆっくり話をしたから良いという訳ではなく3分でもその人と向き合えたら利用者さんにとっても職員にとっても分かり合えたり、ほっとできる時間なので、そのためには職員自身がプロではあるけど自然体で対応しないといけない。やってあげてますよというのがでてしまうとそこは違うし、やらせていただいてますというのも違う。当たり前にやっていく。ご利用者さんからみて「こんな事もしてもらって・・・。あんな事もしてもらって・・・。」というのではご利用者さんの気持ちがどんどん落ちていく。 |
剱持 |
グループホームのケアを有料老人ホームで実践されようとしているんですね。職員の数からいって大変な困難に挑戦しようとしていることがよく理解できました。しかし、正直言って有料老人ホームでこのようなケアを目指しているホームは少ないと思います。凄いことと思います。だから昔に比べて利用者の方々の笑顔や会話が増えて本当に、アットホームな感じに変わっていったんですね。確かに有料老人ホームのケアが利用者と水平関係を築くのは難しいとは思いますが、頑張っておられることがよくわかります。 |
司会 |
たしかにホテル対応ではなくて人と人との関係の方が安心しますよね。 |
長瀬 |
肉体的にと言うより精神的に落ちていくと言うのが、介護度がどんどん上がっていくことにつながるので、気持ち一つの持ちようが、例えば幼老共生型の施設のように孫とかひ孫とか、こっちが面倒見てあげんといけんというおじいちゃんおばあちゃんがいるから元気が出ていく。だから核家族じゃない3世代4世代同居の家族というのは認知症の人は少ないと言われてます。子供じゃなく孫とかひ孫とか無条件にしてあげるような対象じゃないといけない。それが今はだんだん核家族になり、お年寄りだけの生活や独居になり、老老介護になり、で認知症というのはどんどん発症していく。 |
剱持 |
確かにそう思います。わたしたちも幼老統合ケア始め親子デイサービスとか様々なことを身近で学んで、最近ではその理想郷のような提案をまとめ交流のノウハウや実践パターンまで研究して提言してきましたが、なかなか理解してくれる人は少ないですね。と・・いうより最近の福祉サービス事業という言葉から福祉という言葉がなくなり、ビジネス事業だけが一人歩きしているような危惧を持っています。でも、本当にそのようなケアの有り方の再構築こそがこれからの時代に必要だと思いますし、なかったら・・と思うと今後が恐ろしいですね。 |
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長瀬 |
しかし家族制度自体を変えようとしてもそれはもう無理です。だから、それに近い形に持っていこうとすると地域で作るしかないですね。福祉三法の中でいけば高齢者・幼児・障害者が地域の中で当たり前にあり、そこには健常者も当然かかわっている。そういう地域の中でうちが福祉のなかで担っていかないといけない中にひとつは介護型老人ホームがあり、特養があるということです。 |
司会 |
地域の中の役割分担ですね。 |
剱持 |
私もこの地域に住んでいるので本当に今後の取り組みに期待したい気持ちでいっぱいです。 |
長瀬 |
ただ、まだスタートを切ったというだけで、まだ何も実現はしていないという状況です。
そういう意味では元々のハードの部分がそういう雰囲気を出しているのはものすごくありがたいです。それを基にしてソフトのところをどれだけそこに近づけていくのか、
そして、いくら沢山の試みをしても既存の利用者さんがおられるので、新しいことだけ取り組んで見た目は良いけど・・・。という事になりかねない。 |
司会 |
急な変化は危うい面がありますね。 |
長瀬 |
今でも問題はものすごく多いけれども、私が入ったときに比べると利用者さんにいろんな意味で職員が教えてもらえるようになってきた。フェイスシートがあってアセスメントシートがあってそれで検討してこの人はこういうケアプランを決めるとその通りにやってしまう。それ以上できるという想像もできない。シチュエーションが変わったり、条件が変わるともっと良くなるという事が当然のごとくあるんですが、何か機会を提供しなければ分からないし、できないであろうという考えが職員にあればそれは発見できないけれども、もしかしたら出来るかもと思ってやってもらえたらその人はレベルが上がるんですね。この前までは外に出れなかった人が外に出られるようになったり、30分しか出られなかった人が1時間出られるようになったりとか、すこしずつ職員と利用者がお互いを理解しあって、そこが一番です。信頼関係をどうやって作るかです。 |
剱持 |
よけいなことかもしれませんが、もし今後ゆとりが出たならば、ご飯だけでもリビングの
キッチンで作って、目の前で炊きたてご飯をよそう事とかが出来たら利用者の食欲も増し、より家庭的な雰囲気が醸し出されてより良くなると思います。グループホームケアの実践の取り組みをしているのですから、それは充分可能ではないかと考えます。 |
長瀬 |
そういったより具体的な取り組みも今後考えていました。期待してください。 |
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