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岡山で「認知症の人と家族の会」の代表として、ご活躍されている妻井さんと、現在の日本の福祉についてお話ししました。
お母さんを介護され、ご自身もまた高齢期を迎えつつあると話される妻井さんの「当事者」としての熱い意見をお聞きしました。

妻井さんプロフィール(←クリック)

1.良い施設とは

剱持

今日はどうもありがとうございます。
今日は色々考えてはきたのですが、かなり脱線しそうですね(笑)
まずは妻井さんの紹介ですが、妻井さんはマスコミの仕事をされていましたよね?

妻井

現職時代は安保の後のベンチャービジネスだった放送業界でした。時代は激変だった。高度経済成長を過ごして資本主義そのものが変革していくときに広告の時代をすごした。マーケティングに興味があり、意識調査などに関心をもっていました。

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剱持

いつから家族会に関係したのですか?

妻井

それはお袋がほっといたら、おやじが死んでよろずやをやっていたんですが呆けて・・・困りきって引き取った。自分のマンションをもっていたんでそこに住んでもらったんですが、場所を変えたせいでリロケーションショックが激しくなって認知症が進行した。最後は自分の便も食べる状態でした。地獄でした。
知らないから、家のなかに呆けがでたことが「我が家の恥」となり、人に言えない。そんなことから老健に預けました。
それから勉強していろいろ分かってきた。それで、認知症についてなにも分かってないことが分かった。当然理解していないから、『たしなめ怒るわけですが叱るのが一番良くない。認知症を進めることすら分かっていなかった。それから自分たちのように困っている悩みを持っている家族もたくさん居るのではないかと思い、それで家族会をつくってくれと岡山県に申し込んで、岡山支部をつくった。』老後はゴルフと海外旅行をする予定だったが、それが出来なくなった(笑)。認知症のことに関わるようになった。まぁ定年退職なんて日本の制度がもう古くて元気な人はどんどん社会に関わるべきだという考えも持っていましたので。
それでも新しい発見もたくさんあります。

剱持

私が初めてお会いしたのが老健協のオンブズパースン委員会でしたよね?

妻井

そうそう、老健協70くらいある委員会のなかの施設を相互に介護の質を評価しようという集まりが作られて、きのこエスポアール病院なども関わっていたんです。
当時、外部の人間に評価させるということが、かなり異論があったんです。

剱持

かなり圧力もありましたよね?
2,3回目あたりから環境について厳しいことを書いたら、施設側から抗議がきましたよね?

妻井

かなり有力な病院などからもね。まぁお医者さんはプライドはたかいので、「外部から分からんものが何を言うか!」などとけっこうあった。
でも落ち着いて、30箇所以上の施設について最近まで評価をしてきました。
一定の効果はあったと思います。老健協自体も変わってきたし・・・

剱持

そうなんですか?

妻井

まぁ医師にしてみれば、老人を預かっているという意識なんです。素人がきて文句言うなという意識があったんです。まぁ医療の世界ではまだまだありますが・・・

剱持

10年前からご一緒させて頂いてますが、妻井さんは行く度にパワーアップされているようみうけられました。

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妻井

この委員会が良かったのは、介護の専門家、建築家、僕らみたいなアマチュアと色んな人が揃っていたんです。みんなで好き勝手に言って私がまとめて報告していたんですが、なにも喧嘩をしに行ってたわけではないんです。良い点は良いと評価し、ここは改善すべきと提案していました。
たとえば、キレイですっきりしているけれどやたら車イスが多い施設。これは事故が起こらないようにちょっと問題あれば、みんな車イスに乗せる。歩けていた人も乗せる。リハビリをしていない証拠です。
特浴があって、行列をつくっている施設。スタッフが業務を分担して流れ作業で芋を洗うようなケアをしている。そこは名前が通っていて有名な全国ブランドの病院だけれども問題のあるところでした。そういうことをはっきり書くんです。
人間を認知症があるとはいえ、もののように扱うのはだめなケア。
それから比べると佐々木先生は凄いと思ったなぁ~認知症老人が徘徊するために回廊廊下を提案したが、それが間違いだと公な席で堂々間違いを認めるんだから、僕はそんな医師に出会ったことがないから本当に尊敬するよ。

剱持

認知症の対応だけなく身体的にも、普通のお風呂に入れる人を機械浴に入れるというのは職員は楽でも、その人の残存能力を更に低下させてしまいますよね。さっきの車イスの話もおなじで、やがて寝たきりになる。その後、内臓の機能低下を引き起こし内臓疾患になっていく。これがだいたいのパターンですね。

妻井

そう。医療の関係者がまだ勘違いを起こしている。
認知症が進行してだんだん劣化していっていくわけですが、それはケアの仕方によって良くなるんです。
この前びっくりしたのが、おととし77歳のおばあさんが「私はアルツハイマーですが、家族会に入らせてくれ」とやってきたんです。しっかりしていて身なりもきれいで介護している奥さんかなと思ったくらいです。
そのおばあさんが被られていた帽子はご自分で編まれたそうです。しかし、アルツハイマーになって記憶が飛んで、編めなくなってきた。
お医者さんも認知症じゃないと判断していたんですが、血流検査をしたらアルツハイマーであることが分かって、アリセプトを処方されたそうです。それを飲み始めたらまた、編めるようになったんです。
その奥さんはだんなさんが亡くなってからパソコンを習いだしたそうです。物忘れが始まってからの話です。それは亡くなっただんなさんが奥さんの症状を知って、家庭内で相談したうえで家計簿をパソコンでつけていたそうです。パソコンのなかにデータが入ってないので、習いだしたそうです。学習しているんです。

剱持

やはり、私もグループホームへの泊り込みで、利用者と一緒に生活をしましたが、その時思ったのは役割とか生きがいとかが大切であると。と感じました。

妻井

そうなんですよ。また、うちの副会長、墓石屋さんの職人さんですが、最近物忘れがひどくなって、アルツハイマー初期と診断されました。でも会のなかで副代表をして、会議の司会をして、記録をとって、写真を勉強して、パソコンを習ううちに改善しています。写真なんか、最初はフルショットでしか撮らなかったのが、話している人をアップで撮ったらと指摘するとそのように撮り始める。上達しているんです。
そういうのをみていると、記憶はとんでいるけれども、他の学習する機能はまだまだある。意欲とか役割さえあれば、学習できるはず。認知症になったら終わりというのは大嘘です。医者の的確な初期診断があり、きちんとした理解があれば生きていけるのです。初期診断はすごい大事です。
いまの介護は重度化して厄介になった人の面倒をみてやるというものなのです。ケアもハードも。たしかに最後はそういう段階になるんだけれども、その前の段階がかなり生活として人間さとして大切です。新しい老後の視点の確立が大事なのです。私たちも発見ばかりです。
グループホームでも入った当初はめちゃくちゃだったおばあちゃんもケアのいいところではいきいきと生活できる。生きることができる。そういった環境づくりを進めてほしい。そういう意味ではケアとハードの相互間の結びつきはますます重要になるので、設計士の役割はますます重要になりますよ。

剱持

香川県の施主に、昔ながらのプライバシーのないリビングで(収容管理型)、だだっ広いグループホームを経営している方が居まして、その方が、落ち着きのない空間からか?利用者が落ち着かなかったり、利用者間でいざこざが絶えなかったから、広いリビングを一部間仕切りとかして改造して利用者のプライバシー確保や居場所つくりを進めました。すると、利用者の生活や問題化がずいぶん改善されたことを聞き、また同時に施設改造前後の研究データーを見せてもらいました。
その時『より良いハードはケアを助ける。同時に人を育てる。』と言われたことに、今後にむかう勇気を頂いた気持ちがしました。実際に職員の離職率も低下したとお聞きしました。

妻井

なるほど、でもそれが本当だろうと思う。・・ますます思いのもった設計士が増えることを期待したいと思います。

剱持

ここで、スウェーデンの写真をみてみたいと思います。

妻井

1999年に初めて行きました。

剱持

僕は1995年ですかね。最初行ったときは僕も介護施設は施設であり住まいとの感覚はまったくありませんでした。ところが見学に行ったときいろんななじみある家具や調度品があり、まるで施設のお部屋が住まいそのものでした。なんか・・・ショックを受けたことをよく覚えています。

妻井

屋敷跡をグループホームにかえたりすることが多い。 保育園をすぐ近くに設置して交流できるようにしている。ものすごくびっくりしたのは家、部屋のなかに3点セットがある。なぜかというと、ホームだから、誰で も訪ねてくるのがホームで、3点セットが必要ではないですか?と逆に質問されました。生活者の視点が
あることが明快でした。
また、むこうはカラフルなんです。絨毯もひいてある。日本は失禁の問題もあり、ビニールですよ。私は「汚れないですか?」と質問してみました。すると、「汚れないようにするのがケアの本質でしょう?」と返されました。加えて「普通、人は絨毯の上で生活するでしょう?絨毯がないところでの生活は生活の質が落ちます。」と(よく考えれば)当たり前のことを言うんです。人間を人間として見ているんです。

スウェーデン写真
剱持

トイレの問題なんですが、もちろんスウェーデンの施設では全個室に当然のように、トイレとシャワーがついています。日本でも僕が計画した施設ではほとんど全個室にトイレがあります。そのことから僕が学んだり、利用者やケアスタッフから聞いて感じたことは、やはりトイレは大変重要な必要なものと思います。まぁ~スウェーデンからきたひとはシャワーがついていないことを嘆きますが・・

妻井

むこうはシャワーの文化だから。むこうは広いトイレの中にシャワーがあります。まぁ~日本にはお風呂の文化があり、あちらはないから、そこらへんの理解をしてもらう必要性があると思いますよ。
ただ、トイレは絶対用件ですよ。

剱持

やはり身体にハンディキャップを負えば負うほど排泄も自分のペースで出来なくなることがおおくなり、そのためにもマイトイレがあれば自分のペースで、したい時にできるので排泄の自立に繋がると
スタッフにも利用者・利用者家族にも喜んでもらっています。
まぁ~今は旅館も住宅も寮でも個室トイレが普通にあるのが当たり前の世界ですから、介護施設ならトイレが少なくともいいというのはおかしいと思います。

妻井

認知症の当事者が発言したのは2004年といわれています。オーストラリアの科学技術者の長官だった女性が認知症になり、発言したのが最初です。そこでの内容は「私たちには時間の感覚がない。ちょっと待ってくれ・後でねと言われるとパニックをおこす。私たちには今しかない」というものです。
介護職員がすぐに応えるということが大事なんです。トイレの話ですが、私も高齢になって、便所に行く回数が増えました。特に腸の開腹手術をしてからは、朝には3回行くのがパターン化しています。かみさんが入っていて待つこともあります。でもね、トイレを待つというのは高齢期には拷問です。
1ユニットで3つしかトイレがないという設計は認知症が分かってないのと同じ。でも、有名な病院でもそういうところがあるんですよね(笑)本当はケアの基本です。
認知症の当事者にとってトイレは聖域なんです。マイトイレは心の拠り所です。
また、風呂・シャワーの問題ですが、年をとると体が痒くなるんです。毎日入りたい。
ここが年寄りの生理としては必須用件なんです。
ですから風呂も自由に使えるようにするようにと言っています。きれいにすることは臭いもなくなるしね

剱持

認知症になっても自分らしく暮らせる場が必要とされていますね。