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岡山で「認知症の人と家族の会」の代表として、ご活躍されている妻井さんと、現在の日本の福祉についてお話ししました。
お母さんを介護され、ご自身もまた高齢期を迎えつつあると話される妻井さんの「当事者」としての熱い意見をお聞きしました。

妻井さんプロフィール(←クリック)

3.地方と東京、制度について

妻井

麹町っていったら日本テレビがあったり迎賓館があり、高級なところですよね?

剱持

日本で一番近隣対策が大変なところかもしれません。
最初は建てさせないという話になりました。近隣説明も何度も行い、壁面日影図という特殊な図面まで描きました。
「田舎モノがこんなところで設計するな!帰れ!」とまで言われました。
また、東京は条例や消防でも指導が厳しく、田舎出身で、今までこのような経験がなかったので、驚きました。しかし、最初から東京で施設づくりをしていたら、住み心地軽視の指導に対して疑問を感じますし、住まいをつくるという意識がなく、今まできていたでしょうね。

妻井

関東の人はプライドが高い人が多いですからね(笑)
反対に、関西は人間そのものに対する見方が厳しく、しかし、本物をみる力があります。

剱持

ここはプランがどんどん変更になりました。セットバックして、地下室ができました。
それくらい住民が言ってきます。
ただ、東京にも良い点があります。プロポーザルの公正さです。

これは事業者公募になっていて、設計も採点対象になっていました。1万㎡もある広大な土地です。僕は絶対ウラがあると思っていました。(笑)とれるとおもっていなかった。
最初公募にむけて色々調べていると、ある法人と某大手設計事務所が1年前から設計していました。「僕たちのプランに決まっているので、無理ですよ」といわれたそうです。
凄いと思ったのは1次を通過して、次の審査になったときにケアの実施状況を審査しに来て、そこで頭一つ抜けたらしいです。審査員も志の高い人が入っていました。その方々が主に票を入れてくれたみたいです。
で、結局政治力ゼロで勝ったそうです。なんとなく、地方では難しいような気がします。(笑)

  azabu
妻井

うらやましいですね。岡山県内でもケアの質の評価が増えないですかね。事業者選定が行われる際は、同じように現場のケアの様子を見るなどして欲しい。
そして頑張ってくれている 本物の人たちが事業を広げて欲しいと思いますね。やはり行政の方の勇気ある行動がポイントでしょう。岡山の人にも期待をしています。

剱持

麹町も同様でした。設計者の実績も加味して下さいました。これまでの経験では東京の行政の皆さんは良いものと悪いものの判断をしてくれます。今後、他の区でも仕事をする機会が増えると思いますが、東京全体がそうであることを願うばかりです。

妻井

そういえば麻布は、これはとても広いところでしたね。広尾という高級住宅地で大使館も並んでいるし。私はこの近くの病院で手術したんです(笑)
こんな場所でよくこの広い敷地をとれましたね。

剱持

自治大学の跡地です。よく港区が福祉に対してここまでの土地を借地とはいえ提供するのは凄いと思います。逆にそれだけ施設不足で逼迫しているということでもあると思います。

しかし、大変なことが一つあります。施設不足や不動産価値が高いにもかかわらず、東京は東京都安全条例というのがあるんです。建築基準法よりもさらに厳しい。
簡単に言うと、公共の施設では安全のため、非難経路を大きめにとるというものです。
たとえば、1㎡のデイサービスも福祉施設と認定され、廊下幅は1.4m確保しないといけないとか、

妻井

それは東京だけ?地方でもあるでしょう。

剱持

地方ではそこまで厳しい基準はないです。
この条例の問題は建物の規模を考慮していない点です。大きな建物ならいいんですけど、小さな建物で家庭的な雰囲気をつくろうとするときに大きな障害となります。
たとえば、2階に150㎡のデイサービスを設けるとしたら、階段の幅は1.2m。これは大型施設の階段です。蹴上げ・踏み面、エレベータのカゴも大きさが厳密に決められています。
まぁGHは福祉施設ではなく、寄宿舎なので条例対象にならず楽なんですけど、
認知症デイサービスをやろうとしても規制が厳しくてできない・・・地方と違って、東京はデイサービスでも助成金がつくんです。しかし、建築の条件がとても厳しいので思うように増えないのが現実です。土地が狭く高いところで何故そんなことをするのか分からない。

  kenmotsu
妻井

地域による規制は勉強しないとね。この問題は家族会が解決しなければならないかな?

剱持

はい。(笑い)僕も様々な地方で仕事をしましたが、それだけ厳しいのは東京だけです。

妻井

東京は住まいという点では異常都市ですからね。
本当に住む環境としては良いのか?と考えると大問題だと思います。

剱持

マンションの方が落ち着くという人も居ますけどね。

妻井

まぁでも、人間の住まいとしては、いつか見直す時期がくると思うけどね。
人間のあり方からすれば住居問題も再点検すべき時代に差し掛かっているような気もするのですがね・・・

剱持

次に特養の居室の基準の話に入りたいと思います。
現在個室ユニットが厚労省によって推奨されていますが、待機者の問題もあり多床室を認めるかどうか議論がされています。
今春、通達により特養の居室最低面積基準が13.2㎡から10.65㎡に緩和されるということになりそうです。
ちなみに、これは部屋の内面積で算定し、今までどおりトイレと収納は含みません。

家族会は個室を維持するんですね?設計事務所の中でも、平気で多床室復活を唱える事務所もでてきました。僕が算定すると多床型でもトイレや他を含むと4床のお部屋でも約55㎡必要になるので両者を比較すると、個室のほうが1割から多くとも2割までですよ。面積が増えるのは・・・

妻井

介護報酬を考えれば、多床型と個室型で施設側の負担は変わらないでしょう。

剱持

そうかもしれません。だからこそ居場所をつくりつつ無駄な部分は仕分けして設計する重要性が大切になるのです。やはり豪華な玄関ロビーとか必要ないと思いますよ。ユニットは住まいと言いながら、玄関からかけ離れたエントランスロビーを作っていることが多いと思います。GHの玄関はどこに行っても住まいの広さですからね。

妻井

なるほど・・・家族の会としては個室は当たり前だと考えています。でも、事業者の方は重症化して寝たきりになった人は多床でも良いのではないか。ケアする立場から考えると負担にもなる。という声が出始めているそうです。岡山の介護保険推進委員会でもそんな意見を言う委員もいます。
老施協や老健協でもそういった声が出ているのは事実です。
しかし、家族会をはじめとするグループからはなぜ後退するような発言をするのか?という反論が出ています。厚労省も配慮しながらも個室ユニットは進めるでしょう。
世界でみると個室から多床室へ行くというのは日本の後進性をしらしめることになるので、厚労省は世界の批判を恐れて、そういった判断はしないのではないか。というのが私の読みです。

 

※この後平成22年10月17日愛知県岡崎市の特養で多床室にて男性利用者が女性利用者に危害を加え死亡したとの記事が出ました。男性も女性も同室に、2人部屋に6人の人が寝かされていました。

剱持

では、具体的な居室の話です。これがその居室の図面です。まずはGHですが、東京で設計したものです。
さきほども申し上げましたがトイレと収納は含まずに面積基準をクリアしています。GHの場合は7.43㎡です。
こちらは同じく東京で手がけたものですが、公共事業だったため面積に余裕があり、岡山とほぼ同じサイズの居室になっています。少し広いでしょう?
こちらは某設計事務所が設計した居室です。最初の方で言ったようなグリッド割りを基に、あまり居室に対する想いが無い方が作るとこういった居室が出来上がるでしょう。
間口が狭いため、ベッドを置くとほとんどスペースが無くなってしまいます。トイレも無いし、基準はクリアしていても、生活の空間としては貧しいものです。
特養を見てみると、もう少し大きい。13.2㎡ですからね。ただ、少し広すぎるという意見も出ているんです。

  kenmotsu_2
妻井

ん?広いほうが良いでしょう?

剱持

東京の一部の利用者は権利意識が強いためか、馴染みの家具を持ってきて下さいといっても持ってこられないようです。全部施設が面倒みるべきだという考えの方がいらっしゃるようです。すると、ベッドだけのだだっ広い空間になります。リロケーションショックが大きく、さらにヨロヨロと転びかけた時に、掴むものがなく、転倒骨折につながるのです。家具を持ってこないとかなり広々したスペースになるので、これもまた良くないのです。

妻井

なるほど。しかし、もっともっと家族側に対して啓発していく必要性を感じますね。

剱持

また、トイレ・収納を面積に算入するかどうかは大きな問題です。私の設計ではトイレも収納もできるだけ設けるようにするので、面積基準は13.2㎡でも実際には18㎡ほど必要になってきます。
たとえばこのように洗面をむき出しにして、トイレを設けないと16.5㎡まで節約できます。もっとやると収納もなくして、14㎡でもいける。でもこれらは同じ面積でも全く違う部屋ですよね。
つまり、国の面積算定の基準において、トイレ・収納を算入しないのはその人の生活を考えると重要なポイントを落しているのです。
単に10.65㎡に基準を緩和する以外にもやることがあるのではないでしょうか。
ちなみに10.65㎡に緩和された場合、僕の設計は先ほどお見せしたような岡山でのGHの居室のような雰囲気になると思われます。しかし、設計者によってはさらにひどい環境になっていくでしょう。僕は基準を緩和するならトイレや収納設置の有無も加味した基準にすべきだと思います。極端な話、トイレと収納さえあれば、10.65より狭くても良い空間は作れます。

妻井

う~ん、なるほど。私もそう思う。それは矛盾だ。

剱持

さきほどのGHの居室も7.7㎡程度でも豊かな空間になっています。生活が完結できます。
妻井さんもさきほどマイトイレは必須だとおっしゃいましたよね?トイレがある部屋とない部屋では圧倒的に環境が違うのです。

妻井

たしかに、もっと日本人の意識を変えるべきですね。こうした基本課題をあなたが資料つくり国に提言して行くべきだよ。

剱持

大きな問題です。しかし、設計士よりも利用者が発信するほうが良いと思います。
お願いしますよ。妻井さん・・・

妻井

そうですね、我々もハードの事を真剣に考えないといけないね・・ところで、この10,65㎡という面積はどういう基準になっているのですか?

剱持

おそらく多床室の基準と同数値ということでしょう。

妻井

少し荒っぽいですね。もっと真剣に考えてもらわないと・・この先本当に困るなぁ~

剱持

国にももう少し考えて欲しいと思ってしまいます。
東京都は敷地的にはもっと厳しいので、軽費老人ホームなど、どんどん基準が緩和されているようです。これもトイレと収納は算入されません。

また、面積以外にも考えることはたくさんあります。個室に透明ガラスがはめられていて精神病院の保護観察室のようなGHを見たことがあります。
そこは認知症介護でとても有名な方の施設で、管理者の方も理想的な介護論をおっしゃるだけにとても残念でした。言っていることが真実かどうか疑問に感じました。

妻井

『ハード(建物)はソフト(ケア)を写す鏡である。』と言われます。ハードを見ればどんなケアをしているかだいたい分かります。

剱持

しかし、現実にはハードに頼らない介護をするとか・・いまだにハードを重視されない事業所があるのも事実です。この前は個室にトイレを作ると施工費が高くつくと言った大企業の社長さんがいました。
といったかと思うと、ある施設の事務長さんがGH介護は素人でもできると・・・
ソフトさえも重視されない悲しい意見を最近聞きました。

  kenmotsu_3
妻井

情けない話です。事業者の大小でなく事業者・施設の選定には一つに『どのようなハードを作っているか?』により分かる部分が(全てではないが)絶対あると思う。』

剱持

ところで、家族会は施設側が「預かってあげている」という意識の強い時代に利用者から声をあげた集まりですよね?最近はどうなのでしょう。東京などを見ていると徐々に変わってきているかと思うのですが。

妻井

依然として「難しいお年寄りを預かってもらっている」という心象が家族には強く、施設側が強い立場にあることは変わっていないと思います。ただ、東京で始まったような権利意識の強い利用者が意見を言うというのは当然のこととして出てきていると思います。

剱持

岡山での特養で聞いた話なのですが、そもそもユニットケアはユニット内でスタッフと利用者が共同生活を送るという理念のもとに始まったものです。しかし、その施設ではユニット内に立派なキッチンがあるのにお年寄りが手伝おうとしないのです。何故かと尋ねると「家賃と介護費を払っているのに、何故そんなことをしないといけないんだ?」と返すわけです。

妻井

それはたしかに分かる話ではあるのです。国が確かに家賃を取っているわけです。すると権利として介護職員が全てやってくれるのが当たり前だという意識が芽生えます。国の制度がそうした意識を増長させる誘因にもなっているのです。

制度以外にも、家族のいる世帯は40パーセントくらいになり、サービスは外部化されたことや、さらに団塊の世代が現れだしたことも大きく影響しています。
権利意識の強くなることももちろんあるし実際に税金も保険料も払っているわけですからね。ただ、権利の質を見極めないといけないと思いますね。
国が介護サービスという言葉を1990年につくり、介護保険を実施してきた段階からこういった時代になるだろうと思っていました。都市部では見られますが、田舎はまだそうでもない。待機者も多いですしね。ただ、もう時間の問題でしょう。

剱持

大変ですね。

妻井

都市部では狭いところでも我慢できるかもしれないけれど、地方でこの狭い基準では15年たつと「狭い」という声が増えてくると思います。

剱持

もう一部屋という具合にですかね?

妻井

団塊の世代は必ず発言します。
先ほどの食事などにしても質が問われるようになります。

剱持

トイレは必要ですね?

妻井

ついていないところは選ばれなくなるでしょう。10年後くらいから利用者選択の時代になるでしょうね。しかし、今現在では介護論そのものもついていっていないです。