3.地方と東京、制度について |
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妻井 |
麹町っていったら日本テレビがあったり迎賓館があり、高級なところですよね? |
剱持 |
日本で一番近隣対策が大変なところかもしれません。 |
妻井 |
関東の人はプライドが高い人が多いですからね(笑) |
剱持 |
ここはプランがどんどん変更になりました。セットバックして、地下室ができました。
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妻井 |
うらやましいですね。岡山県内でもケアの質の評価が増えないですかね。事業者選定が行われる際は、同じように現場のケアの様子を見るなどして欲しい。 |
剱持 |
麹町も同様でした。設計者の実績も加味して下さいました。これまでの経験では東京の行政の皆さんは良いものと悪いものの判断をしてくれます。今後、他の区でも仕事をする機会が増えると思いますが、東京全体がそうであることを願うばかりです。 |
妻井 |
そういえば麻布は、これはとても広いところでしたね。広尾という高級住宅地で大使館も並んでいるし。私はこの近くの病院で手術したんです(笑) |
剱持 |
自治大学の跡地です。よく港区が福祉に対してここまでの土地を借地とはいえ提供するのは凄いと思います。逆にそれだけ施設不足で逼迫しているということでもあると思います。しかし、大変なことが一つあります。施設不足や不動産価値が高いにもかかわらず、東京は東京都安全条例というのがあるんです。建築基準法よりもさらに厳しい。 |
妻井 |
それは東京だけ?地方でもあるでしょう。 |
剱持 |
地方ではそこまで厳しい基準はないです。 |
妻井 |
地域による規制は勉強しないとね。この問題は家族会が解決しなければならないかな? |
剱持 |
はい。(笑い)僕も様々な地方で仕事をしましたが、それだけ厳しいのは東京だけです。 |
妻井 |
東京は住まいという点では異常都市ですからね。 |
剱持 |
マンションの方が落ち着くという人も居ますけどね。 |
妻井 |
まぁでも、人間の住まいとしては、いつか見直す時期がくると思うけどね。 |
剱持 |
次に特養の居室の基準の話に入りたいと思います。
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妻井 |
介護報酬を考えれば、多床型と個室型で施設側の負担は変わらないでしょう。 |
剱持 |
そうかもしれません。だからこそ居場所をつくりつつ無駄な部分は仕分けして設計する重要性が大切になるのです。やはり豪華な玄関ロビーとか必要ないと思いますよ。ユニットは住まいと言いながら、玄関からかけ離れたエントランスロビーを作っていることが多いと思います。GHの玄関はどこに行っても住まいの広さですからね。 |
妻井 |
なるほど・・・家族の会としては個室は当たり前だと考えています。でも、事業者の方は重症化して寝たきりになった人は多床でも良いのではないか。ケアする立場から考えると負担にもなる。という声が出始めているそうです。岡山の介護保険推進委員会でもそんな意見を言う委員もいます。 |
※この後平成22年10月17日愛知県岡崎市の特養で多床室にて男性利用者が女性利用者に危害を加え死亡したとの記事が出ました。男性も女性も同室に、2人部屋に6人の人が寝かされていました。 |
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剱持 |
では、具体的な居室の話です。これがその居室の図面です。まずはGHですが、東京で設計したものです。 |
妻井 |
ん?広いほうが良いでしょう? |
剱持 |
東京の一部の利用者は権利意識が強いためか、馴染みの家具を持ってきて下さいといっても持ってこられないようです。全部施設が面倒みるべきだという考えの方がいらっしゃるようです。すると、ベッドだけのだだっ広い空間になります。リロケーションショックが大きく、さらにヨロヨロと転びかけた時に、掴むものがなく、転倒骨折につながるのです。家具を持ってこないとかなり広々したスペースになるので、これもまた良くないのです。 |
妻井 |
なるほど。しかし、もっともっと家族側に対して啓発していく必要性を感じますね。 |
剱持 |
また、トイレ・収納を面積に算入するかどうかは大きな問題です。私の設計ではトイレも収納もできるだけ設けるようにするので、面積基準は13.2㎡でも実際には18㎡ほど必要になってきます。 |
妻井 |
う~ん、なるほど。私もそう思う。それは矛盾だ。 |
剱持 |
さきほどのGHの居室も7.7㎡程度でも豊かな空間になっています。生活が完結できます。 |
妻井 |
たしかに、もっと日本人の意識を変えるべきですね。こうした基本課題をあなたが資料つくり国に提言して行くべきだよ。 |
剱持 |
大きな問題です。しかし、設計士よりも利用者が発信するほうが良いと思います。 |
妻井 |
そうですね、我々もハードの事を真剣に考えないといけないね・・ところで、この10,65㎡という面積はどういう基準になっているのですか? |
剱持 |
おそらく多床室の基準と同数値ということでしょう。 |
妻井 |
少し荒っぽいですね。もっと真剣に考えてもらわないと・・この先本当に困るなぁ~ |
剱持 |
国にももう少し考えて欲しいと思ってしまいます。
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妻井 |
『ハード(建物)はソフト(ケア)を写す鏡である。』と言われます。ハードを見ればどんなケアをしているかだいたい分かります。 |
剱持 |
しかし、現実にはハードに頼らない介護をするとか・・いまだにハードを重視されない事業所があるのも事実です。この前は個室にトイレを作ると施工費が高くつくと言った大企業の社長さんがいました。 |
妻井 |
情けない話です。事業者の大小でなく事業者・施設の選定には一つに『どのようなハードを作っているか?』により分かる部分が(全てではないが)絶対あると思う。』 |
剱持 |
ところで、家族会は施設側が「預かってあげている」という意識の強い時代に利用者から声をあげた集まりですよね?最近はどうなのでしょう。東京などを見ていると徐々に変わってきているかと思うのですが。 |
妻井 |
依然として「難しいお年寄りを預かってもらっている」という心象が家族には強く、施設側が強い立場にあることは変わっていないと思います。ただ、東京で始まったような権利意識の強い利用者が意見を言うというのは当然のこととして出てきていると思います。 |
剱持 |
岡山での特養で聞いた話なのですが、そもそもユニットケアはユニット内でスタッフと利用者が共同生活を送るという理念のもとに始まったものです。しかし、その施設ではユニット内に立派なキッチンがあるのにお年寄りが手伝おうとしないのです。何故かと尋ねると「家賃と介護費を払っているのに、何故そんなことをしないといけないんだ?」と返すわけです。 |
妻井 |
それはたしかに分かる話ではあるのです。国が確かに家賃を取っているわけです。すると権利として介護職員が全てやってくれるのが当たり前だという意識が芽生えます。国の制度がそうした意識を増長させる誘因にもなっているのです。制度以外にも、家族のいる世帯は40パーセントくらいになり、サービスは外部化されたことや、さらに団塊の世代が現れだしたことも大きく影響しています。 |
剱持 |
大変ですね。 |
妻井 |
都市部では狭いところでも我慢できるかもしれないけれど、地方でこの狭い基準では15年たつと「狭い」という声が増えてくると思います。 |
剱持 |
もう一部屋という具合にですかね? |
妻井 |
団塊の世代は必ず発言します。 |
剱持 |
トイレは必要ですね? |
妻井 |
ついていないところは選ばれなくなるでしょう。10年後くらいから利用者選択の時代になるでしょうね。しかし、今現在では介護論そのものもついていっていないです。 |