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岡山で「認知症の人と家族の会」の代表として、ご活躍されている妻井さんと、現在の日本の福祉についてお話ししました。
お母さんを介護され、ご自身もまた高齢期を迎えつつあると話される妻井さんの「当事者」としての熱い意見をお聞きしました。

妻井さんプロフィール(←クリック)

4.福祉の在り方

(オーディエンス)

施設介護は増えていくんでしょうか?スウェーデンなどをみると在宅介護が充実していて、ヘルパーさんが一日に4回も5回も訪れるような体制があると聞きました。日本ではどうなんでしょう?

妻井

スウェーデンは現場に決済権があります。医療の度合いが分かる看護師さんとケアワーカーで予算を決められるんです。このおばあちゃんなら1日に5回介助が必要だなとか、食事介助はいるな。という具合にその人の必要性に応じたケアプランを現場がつくっている。

(オーディエンス)

日本もいずれそっちの方向にいかないといけないなと思いました。そちらの方が経費もかからないのではないでしょうか?

妻井

日本では健康保険がとても良くできた制度です。保険証を持っていけばどこでも診てくれる。シンプルです。ただ、介護保険はとても複雑です。肝心の利用するお年寄りには極めて分かりにくい制度設計です。
複雑な制度設計はとても問題です。わざと分からないようにしているのではないかと思うくらいです。要介護度にしても7段階にする必要がどこにあるのでしょう?コンピュータにかけて本人のいないところで要介護認定審査会にかける。それで1ヵ月後に要介護認定がおりる。生身の人間なんて、1ヶ月あれば変わってしまいますよ・・・。もっと現場の判断が生かされるべきなんです。認定調査や審査会など中間経費には年間3000億円くらいかかっていると聞いていますが、そんな経費は直接介護に関わる現場に回すべきだと思います。

とはいっても、介護保険は介護の社会化という点では一定の効果がありました。でも制度設計は間違っているのではないかと思っています。
特に要介護度のくくりは廃止すべきです。家族会も私が10年前に言い始めたことをやっと発言し始めました。
ただ、介護保険は壮大な実験なのです。ケアマネージャーはイギリスの制度、GHはスウェーデン、地域密着型サービスは日本の宅老所がもとになっている。そういった色んなものを五目飯的に集めてつないでつくったものです。再来年に制度の大改正ということになっています。

いま問題になっている100歳以上の高齢者の所在不明問題ですが、これは本来役所が気づくべき問題です。江戸時代の人間が生きていたらおかしいと思わないといけない。今、役所はただの事務処理係に堕落してしまっているように思われます。疑問があれば直ちに自分で足を運んで、点検して課題解決を図る原則が棚上げされているように見えます。警察もそうで、危険防止の予防の情報提唱をしても取り合わない。問題が起こって初めて事件として動き出す姿勢が顕著になっています。公的機関への義務が改めて問われている段階なのでしょう。
スウェーデンは高齢者ケアの問題でも、現場の人がどんどん自分の責任において判断して、お年寄りにアドバイスをしています。日本の介護のシステムもそうなるべきです。

ただ、こういった問題点について、役所の方自身が疑問視しているのることも多いです。熱い想いを持った方々ですね。
そういった方々が行動し易いように我々市民が警鐘を鳴らすべきでしょう。

  tsumai_2
(オーディエンス)

在宅の仕組みというのはできあがるのでしょうか?

妻井

スウェーデンは基盤ができています。在宅で支えられなくなってもGHに行き、もっと十度になればナーシングホームなどが整備されているんです。
GHは在宅扱いですよね。GHを8つほど集めて、事務管理を効率化している事例もありました。ウィングのようにGHを配置していました。

(オーディエンス)

いま要介護者にかかる費用は30万円ほどかかりますよね(オーディエンス)

剱持

在宅介護も要介護の度合いで介護報酬が決まっています。GHにしても特養にしても同じく介護報酬が決まっています。
施設に入る場合は家賃分や食費分が利用者が払うのでどうでしょうか?在宅で居宅事業者が介護報酬の枠一杯使うとそんなに差が開かないような気がしますが・・
特養では助成もありますから、社会の負担という意味では少し大きいかもしれません。

妻井

もっと地域で考えていかないといけないんです。地産地消など産業構造から考えないといけない。中央集権ではなくてね。フランスなんかはうまくやっています。地元の野菜を優先して食べていますよ。

人件費とは別に施設費がかかってくるので、助成金を湯水のごとく使うのなら・・活かした使い方をしないのなら施設を建てずに在宅でどんどんやればいいんじゃないかなと思います。建物は介護費とは別ですからね。
良い施設をつくる以外にももっと考えるべきことがあるんじゃないかな?と思ってしまいますね。

剱持

これを見てください。これは品川二葉町でのオーナー創設型のGHと保育所のコンペ案なんですけどもちろん東京都から助成金がでます。

妻井

どれどれ・・これはGHが3.4階で保育所が1.2階か・・・合築でおもしろそうだけど・・じつは安易に
子どもと認知症のお年寄りを結び付けてはいけないと思っています。

剱持

私もそう思います。(笑)単に結びつけるのはだめです。しかし、上手く両方を繋ぐことができれば、世代を超えたといいましょうか・・施設だけでなく上手くいけば地域全体を助けるものになるんです。格好よく言えば『助け合いの地域つくり』ですかね

  futaba_1
妻井

しかし、見た目はただの合築に見えるけど(笑)

剱持

ここでは使い方も想定した作りとしています。ライフサポートはGHが地域に出る・・地域の人が気楽にやってきてくれて地域の一員となることを・・普通に地域にとけこむことを理想として言ってますよね?

妻井

そのとおりです。
あぁ、段階的にこのようなアプローチをするんですね。こうした理念がきちんと位置付けられていれば嬉しいのだが・・・

剱持

これは、きのこさんが品川区で実践している施設や・・赤磐市の「たけのこの家」という先進事例に直接入り込み話を聞いたり現場を生で見て入り込んで、つくり込んでいったんです。

妻井

これからの理想を捉えているね。この有償ボランティアとは?

剱持

施設の利用者だけでなく、地域の一人暮らしのお年寄りにボランティアに来てもらって、デイとお年寄りと子どもと一緒に遊んだり面倒みたり一緒に近所に散歩に行ったりしてもらうんです。みんないい表情でしょう?

  futaba_2
妻井

これから高齢化がどんどん進むから孤独死などのさまざまな問題が増えるでしょう。 とくに核家族化がそれに拍車をかけています。家族が近くにいなくて・・子どもも居ない場合は年をとればとるほど、寂しさから孤独になり閉じこもりがちになります。
これが上手くいけば独居老人の生きがいにもなるし介護予防にもつながるね。子どもに対しても良いことが多いでしょうね。子どもがらみの事件も最近本当に多いから・・昔はこどもの虐待なんぞなかったよ。

剱持

そう思います。先ほどにかえりますが上手く助成金を使えば介護老人だけでなく地域のために助成金を使うことができます。世代も超えて・・もちろん理想形として介護予防に繋がり介護保険や医療保険を抑えることにつながるのでは?と身勝手な期待をしています。つい最近も新聞記事で倉敷市がそのような有償ボランティアの制度をおこしましたね。

妻井

そうですね。これからはこれでいかなくちゃ(喜)。しかし、介護のほうは10年前に介護革命が起こったけど・・保育園はどうなんでしょう?

剱持

大阪の事件以来完全に締め切りで地域とますます希薄になっているようですね。 ますます子どもだけのワールドで完結しています。

妻井

合築ではその点を考えなければいけないですね。ただ、意識を持ったスタッフが必要でしょう。ああ、あと保育園のお母さんの協力もあると良い

剱持

スタッフはとても重要です。というかお年寄りと子供の間の存在が必要です。先ほどの事例でも10代の若者がいないんですよね。
そこがなんとか埋まれれば理想像なんでしょうけど・・でもそういえば江東区のほうに『老幼統合ケア』の先駆者的な施設がありますが、そこではこどもの時にお年寄りとの関わりが深く、中学入学時とか高校入学ときに、わざわざ訪れる子どもたちもいるそうです。
まわりになにもないGHでは少し困難ですが、ここの例のように廻りに商店や住宅・公園・小学校や中学校があれば実現可能ではないかと・・・

妻井

可能だね。まさしく子どもからお年寄りが線でつながるようになるね。介護施設も小学校も保育園も公園も社会的財産を有効に活用できる。また、人に対して有機的な関係性が養われる土壌になってゆけばいいね。その考え方は・・これこそ助成金が活きるということだ。

剱持

そのためには公の人が真剣に勉強して欲しいですね。

妻井

そのとおり
ところでもちろんこの案は勝ったんだろう?

剱持

負けました。おそらくあまり交流もなにひとつない「子どもの城」を計画した事務所に・・・我々の案は区の人は絶賛してくれて賛同を得ましたが・・・負けました。(苦笑)

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妻井

区役所の要望はとおらないのか?

剱持

あくまでオーナーが土地を提供して建てる建物ですから、あくまでオーナーであり事業者が決定するのが、残念ながら筋道です。ヒアリング時に交流の部分はスルーされて、しょうもない理由で負けたようです。

妻井

助成金も出すのに注文を出さないのはおかしいでしょう。

剱持

それが今の現実なんです。だから、東京都区内では区によって違いますが、オーナーは介護や福祉の素人で採算性しか考えていない人が圧倒的に多いので、オーナー型を認めていない区もあるんです。
実際トラブルも多いと聞きました。今回は事業者の親会社の社長がオーナーだから特別に認められたようですけど・・・

妻井

でもなにか・・納得できないな。もっとしっかりしてくれないと認知症の人が幸せならないよ。
オーナーも、社会的貢献ではないけど、もっともっと真摯に勉強して採算性だけを判断材料にしないでほしい・・、それに、介護はそんなに大もうけできるように仕組みがなってないよ。

剱持

そうです。おっしゃるとおりです。これからは、事業者も採算性だけでなく、社会や地域になにができるかが重要にならないと利用者にとってはさびしいですよね。

妻井

何度も言いますが、利用者満足度が軽視されているのが、この業界なんです。
施設をつくる際は「自分が入る・自分の親が入る」と思って計画するべきです。そうすれば、自然と「地域の資産」として認識されはじめます。
地域を含め廻りの評価が高まれば自然とお客さんはくるものなんだが・・・

剱持

その考えがもっと広まれば、私も仕事がし易くなります。(笑)