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岡山で「認知症の人と家族の会」の代表として、ご活躍されている妻井さんと、現在の日本の福祉についてお話ししました。
お母さんを介護され、ご自身もまた高齢期を迎えつつあると話される妻井さんの「当事者」としての熱い意見をお聞きしました。

妻井さんプロフィール(←クリック)

5.私たちはどこへいくのか?

剱持

ところで、いま岡山では特養の待機者が7000人以上いるんですよね。

妻井

もっといるでしょうね。
利用者は特養がないから有料老人ホームに入るのです。政府もそっちの方がいいんです。費用がかからないから。それは、小泉政権の自己責任という路線でそちらに誘導してお金を使わせたいのです。しかし、社会保障の観点からはスウェーデンなどでは介護は行政責任です。税金払っている国民の老後は保障するというのがむこうの考え方です。
うちの娘がフランスで暮らしたときに税金をたらふくとられたので怒っていた。でも子供が生まれると行政が徹底してケアするんです。幼児検診を具体的に時期ごとにチェックして、検査に行っていないと電話で検診を受けるように連絡してくる。
スウェーデンでびっくりしたのは、介護職員の質を上げないとお年寄りがかわいそうだということで全職員の研修状況を国が把握しているんです。研修を規定の時期に受けていないと、研修を受講するよう指導してきます。介護の質を行政が担保しているのです。

(オーディエンス)

介護は民間が行うのですか?

妻井

いや、ストックホルムなどの都市部以外は自治体経営でスタッフは公務員です。かなり民間も入ってきたと聞きますが、オンブズマンが厳しく監査しています。

剱持

たしかデンマークは全て公務員ですね。

妻井

つまり、老後や子供は公的機関の責任で守るべきものなのです。学校も入学は簡単だけど卒業は難しい。大学での講義も30パーセントほどが先生の講義で、あとはディベート。学生は自分で調べ、自分の意見を持つ。したがって、自立できるようになっている。日本は知識を覚えることが優先され、人間を鍛えない傾向の学校が多いのです。
就職も一回までは転職時に再教育期間に給料の6割がもらえます。

教育の無料化や老後の安心が担保されているので、国民は税金高くても文句を言わないのです。年取って年金もらうのが楽しみです。お年寄りが落ち着いています。

剱持

消費税も高いですしね。

妻井

ただ、食材などは低いはずです。また、高速道路なども無料です。
写真に出ていたスウェーデンの通訳のハラさんはもともとサラリーマンをやっていたんですが、30歳すぎにスウェーデンに行って、日本のようにねたみとかいじめがない状況をみて居ついてしまったそうです。
私はスウェーデンに行くときに福祉が進んでいるとか先入観を持たないようにして行きました。これは記者をやっていたときからの変わらないスタンスで固定概念で見ないようにしています。しかし、びっくりしました。
最初、デイサービスで朝お茶を飲んで説明を聞いているときに職員さんが説明してくれている途中、むこうでおばあさんが「ううん」と言った。するとススっと行ってトイレ介助をしていた。しばらくしてまた「うう」となると、「またトイレかな?」と思ったら違う。今度はお茶をすっと出すんです。同じようにみえて見極めている。さらに驚きなのは僕たちに説明をしながら利用者から目を離さないこと。認知症の介護で最も重要なことです。あとで聞いたらやはり優秀な介護職員さんでした。直接話してみると「介護は奥が深いですよ」と言われて、これはと思い勉強するようになりました。
その後、GHと特養でお年寄りが変わることに気づきました。良いケアをしているところはお年寄りが元気になるんです。押し並べてGHの方がお年寄りが元気です。

  tsumai_13
剱持

人員配置も違いますしね。

妻井

それもあるけど、それだけじゃない。一緒に生活するという感覚が良いんでしょう。

剱持

GHは最初からうまくいきましたよね。

妻井

スウェーデンの理念と一緒に入ってきましたからね。

剱持

さすがに制服のGHはないですもんね。

妻井

そう、白い制服があるでしょう?その白と黒が認知症の高齢者には最も抵抗がある色だといわれています。最も良いのはアロハ調の鮮やかな色だそうです。それが絶対ではないけれども色彩については認知症の生活においてこれから研究すべき材料でしょうね。
高次脳機能障害のお年寄りは立体感覚がなくなり、階段などが平面に見えるそうですよ。

剱持

GHではそこまでの人はなかなかいないですけどね。

(オーディエンス)

日本はいま認知症の人はどれくらいいるんですか?多いんですか?

妻井

認知症の人がどれくらいいるかどうか分かっていないのです。岡山県で聞いても調べていないという回答です。
「家族の会」岡山県支部を結成した頃、県の担当者に「認知症の人は何人ですか?」と聞いたところ「さぁ?」という返事でした。
「どのくらいの需要があるかとか実態把握をしてから施策を作るのが仕事のイロハでしょう。」と言いましたら、何者だという顔つきで怒っていました(笑)
ただし特養でも老建でも認知症の割合が高くなっていることだけは事実です。しかし、実態については、まだ家族も隠すし、的確に診断できる医者も少ない。そのうえ“呆けたら終わり”という考えが強かった時代で、なかなか実態把握は困難だったと思われるのです。

(オーディエンス)

近年増えてきたという印象があるのですが・・・

妻井

隠していたんです。座敷牢の中にいれて、家族の恥としていたのです。
でもそれは超高齢社会になった本来の老化のあるべき姿の一つなんです。

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剱持

老化というのは関節・内臓・頭にくる人の3パターンだそうです。

(オーディエンス)

環境の変化が激しすぎるんじゃないですか?

妻井

それはあまり関係ないと思うのですが、実態は分かっていないというのが本当のところです。

(オーディエンス)

ストレスと一緒で認知症という区分をつくったから、そうでもない人も入っているかもしれないのかな?と

妻井

それはきちんと判別する基準があります。普通物忘れだけだと思われているかもしれませんが、それだけではありません。認知力は物を判断する力です。その判断の基準は文章で書いてある場合が多く、文章を使えなくなると呆けたとなる。また、慣れた仕事ができないなど、通常の認知が複数衰えたら認知症。というのが判別の基準です。
原因疾患はひとつではないです。アルツハイマーだったり、レビー小体病だったり、幻視が出たりする場合もあります。うちのばあさんはそれでした。
昔はそれらは全部アルツハイマーという診断でした。十数年前にレビー小体病が発見されていたんですが、最近まで医者は知らずに診断していたんですね。脳出血や脳梗塞でやられた場所にも影響します。アルコールが誘因になることもあります。多いのはアルツハイマー病。
また、ボクシングなどで殴られてその後遺症、梅毒、エイズなどいろんな原因がある。そのやられる部位によって症状が変わってきます。
一旦なってしまうと、まだ治療薬はないんです。

剱持

最近よく新聞紙上に認知症の特効薬がでるでると出ていますが・・本当に治療薬はできるのでしょうか?やはり・・でないんですかね?

妻井

簡単には出ないでしょう。かなり前から専門の病理学者なども数年後には出来る出来ると言っていましたが、中々治療薬が出来てこないのが実情です。
1906年にアルツハイマーという医者がおかしな行動をする高齢者の脳を解剖して発見した病気が、104年経っても治療薬が見つかっていないんですよ。アリセプトという進行を遅らせる薬だけです。これはエンジンオイルのようなものです。効かない人もいるし、復活する人もいる。さきほどの編み物のおばあちゃんのようにですね。ですから、早期診断というのはとても大切なんです。
でも、治療薬は出ない。なぜかというと人間の脳とチンパンジーの脳は体積は別として、ほとんど同じ構造なのです。1パーセントも違わない。その違いが服を作り道具を作り、言葉を発見したのです。奇跡の脳なのです。そして、それはまだ発展途上の未熟な細胞なのではないでしょうか。そんな複雑な機能を発揮する未熟な脳が簡単に解明できるわけがない。そう思うんです。

でもね、その奇跡の脳に生まれたことは人間はもっと喜んでいいと思います。今日では、それに加えて半世紀前よりも倍生きられるようになっているのですよ。その奇跡の脳をもった人間の最後のステージである認知症をはじめとする高齢期について関わる仕事というのは壮大ないい仕事だと思っています。

剱持

いい締めですね(笑)

妻井

いい時代です。戦争もないし。200年前まで殺し合いしていた人間が殺してはいけないということを勝ち取ったんです。1948年に世界人権宣言が出来て、人間の基本的な人権が確保されて60年足らずです。僕らは良い時代に生きているのです。だからみんなも(周囲を見渡す。)がんばらないと・・

剱持

なにか言い忘れたことはありますか? (笑)

妻井

僕は建築の人に言いたいのはやはり内部と外部のつながりです。近頃、暑い日が続きますが、僕は昨日ゴルフに行ったんです。

剱持

自殺行為ですね(笑)

妻井

でも、動くと気持ちがいい。やはり動かないといけない。出来るだけ老いても自立した行動が出来るよう努力したいと思います。
でも、老いて介護を要することがでてくるのは避けられません。そうしたことに備えて、地域資源としてきちんとした形で福祉資源を公的責務として整備していって欲しいですね。

剱持

妻井さん本当に今日はありがとうございました。

   

 

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